「それだけの価値があるのなら、これ一つで3人分の服を買う事が出来ますわね」
ストールさんが言うにはね、ニコラさんたちの服、新しいのを上下1着ずつ入れてもビックピジョンの魔石一個でおつりがもらえるくらいなんだって。
でもストールさんはそう言った後、ちょっと考えてから僕にこう聞いてきたんだ。
「ルディーン様、魔石を3つ出されたという事は、それだけの予算を使ってもよろしいという事でしょうか?」
「うん。だって僕、ビックピジョンの魔石だったらいっぱい持ってるもん」
あっ、今ポシェットの中に入ってるわけじゃないよ?
この中にはいろんな大きさの魔石を入れてあるから、ビックピジョンのだけが入ってる訳じゃないもん。
だから今持ってる皮袋の中に入ってるのは10個くらいなんじゃないかなぁ?
でもお家に帰ったらね、お父さんが取った魔石は全部魔道具用にしていいよって言ってくれてるもんだからホントにいっぱいあるんだよね。
だから3つだけじゃなくって、もっといるんだったらこの皮袋に入ってるのを全部使っちゃってもいいって思ってるんだ。
「そうですか。でしたら冒険者ギルドに二つお売りいただきたいのです」
「いいよ。でも、何に使うの?」
「それはですね、この者たちの履き物を買いたいと思っているのですわ」
ストールさんはね、お金があるんだったら服だけでなくって靴も買った方がいいんだよって言うんだ。
「履物って、ニコラさんたちの靴を買うの?」
「はい。実を申しますと冒険者の履いている靴は、街で暮らす人たちが履いているものと少々異なっているのです」
ストールさんはね、今ニコラさんたちが履いてる靴だと、このお家の床を傷つけちゃうかもしれないんだよって僕に教えてくれたんだ。
「来客がある事を想定して薄い絨毯が敷いてある区画なら問題はありません。ですがこの子たちが日常的に生活来る区画は、樹液でコーティングされているとはいえ木の床がむき出しになっておりますもの。今の靴のまま生活すれば傷がつく恐れがありますわ」
「そうなんだ」
冒険者って森の中を歩くでしょ?
だから根っこや何かを踏んで足が痛くなっちゃわないように、靴底は硬い木で作ったものが多いんだって。
でもそんな硬いのを履いて歩いてたら、お家の床が痛んじゃうでしょ?
だから街に住んでる人は、魔物の皮や柔らかい木でできた靴底を使うのが普通なんだよってストールさんは教えてくれたんだ。
「それに彼女たちの履物は、ひもで足に縛り付けるような形になっておりますでしょ? このような形ですと森の中で間違って脱げてしまう事は無いでしょうけど、日常的に使うには少々不便ではないかと」
ストールさんに言われてニコラさんたちの靴を見てみたんだけど、そしたら確かに塗軍が大変そうな形なんだよね。
ニコラさんたちの靴はね、つま先とかかとのとこだけが硬い皮で、後はぶ厚い布でできてるんだ。
でね、その布の所に縫い付けられたリボンみたいな2本のひもで足首に括り付けるようになたちになってるんだもん。
これだと履くのも脱ぐのも、すっごく時間がかかっちゃうんじゃないかなぁ?
「ほんとだ。なんか僕が持ってる足の防具みたいになってるね」
「足の防具ですか?」
「うん! 前にお父さんに買ってもらったんだけど、今履いてる靴の上から何とかスパイダーって魔物の糸で強くしてある魔物の皮を膝の下っかわを守るように巻いて、それに丈夫な革のひもをぐるぐる巻きにしてつける防具なんだ」
森の中にはニコラさんたちが襲われたゴブリンや、毒を持った蛇とかがいる事があるでしょ?
だからそういうのに襲われても大丈夫なようにって、初めてイーノックカウに来た時にお父さんが買ってくれたんだよね。
「なるほど。確かに彼女たちの履物とよく似たつけ方ですわね」
「うん。でもあれ、つける時も外す時もすっごく大変だもん。そんなのをいっつも履いてたら大変だもん。もっと簡単にはけるのを買った方がいいよね」
「はい。わたくしもそう思います」
それにね、ストールさんはお外に履いてくのとお家の中で履くやつの二種類をできたら買っておいた方がいいって言うんだよ。
「魔物の皮でできた靴底の方が館を傷つける心配は少ないのですが、そのような靴で石畳の上を歩きますとすぐに破れてしまいます。ですから私どもも、館の中と外では履物を変えておりますのよ」
「そうなんだ。ニコラさんたちの靴、両方買っても魔石1個で足りるの?」
「十分でございます。正直なところ最初の一つだけでも足りる可能性が高いのですが、皮の靴底を使っている方は魔物がとれる数によって大きく値が変わるので念のためもう一つお売りいただけると安心して買いに行く事ができるのです」
そっか、もしお金が足んなくって買えなかったら困っちゃうもんね。
それを聞いた僕はストールさんにビックピジョンの魔石を2個、渡してあげたんだよ。
「確かにお預かりします。余ったお金は、冒険者ギルドの預金に入れて置けばよろしかったですか?」
「うんとね、僕が村に帰った後もニコラさんたちのご飯を買わないとダメでしょ? だから、ストールさんが持っててよ」
今は宿屋さんに泊まってるからそこでご飯が食べられるし、僕がイーノックカウにいる間は一緒に食べに行けば大丈夫なんだよね。
でも僕、いつかはグランリルの村に変える事になるでしょ?
そしたらニコラさんたち、ご飯が食べられなくって困っちゃうもん。
だからそうならないようにって、おつりは全部ストールさんにあずかってもらう事にしたんだ。
「解りました。でしたら残った分はわたくしが管理しておきますわ」
「うん!」
ストールさんが預かっておいてくれるんだったら、ニコラさんたちがお腹を空かして困っちゃうなんて事は無いと思うもん。
だから僕も安心して、村に帰る事ができるんだ。
「ところでストールさん、ニコラさんたちの服、いつ買いに行くの?」
「こまごまとした用事をかたずけた後参ろうかと思っておりますが、どうしてそのような事を?」
「えっとね、僕も一緒に行くのかなぁ? って思ったんだよ」
僕、これからお水を汲み上げる魔道具を井戸につけるとこを見に行く事になってたでしょ?
だけど、ニコラさんたちの服や靴を買うのも大事だもん。
だからもし一緒に行くんだったら、そっちは早く終わらせないとダメだよねって思ったんだ。
でもね、
「僕はついて行っちゃダメなの?」
「いえ、いけないというより、いらっしゃらない方がよいかと考えております」
それを聞いたストールさんは。僕は一緒に来ない方がいいよって言うんだよね。
でも、ついて行っちゃダメじゃないけど、ついてこない方がいいって言うのはどういう事なんだろう?
ストールさんのお話を聞いて僕は頭をこてんって倒したんだけど、すぐにその理由を思いついたんだ。
そう言えば、お母さんやお姉ちゃんたちのお買い物、すっごく時間がかかったっけ?
前にお出かけした時も、雑貨屋さんですっごく時間がかかったもんね。
ストールさんはきっと、僕がつまんないって思っちゃうんじゃないかなぁって考えたんじゃないかな?
「えっとね、いっぱい時間がかかっちゃってもいいよ」
「時間ですか? ああ、いえ、買い物に時間がかかるというのが理由ではございませんわ」
そう思った僕はいっぱい待ってもいいよって言ったんだけど、そしたらストールさんはそうじゃないんだよって言うんだよね。
だから僕、なんで? って聞いたんだ。
そしたら危ないかもしれないからなんだってさ。
「古着屋は、いろいろなサイズの服がうずたかく積まれております。そのようなところにルディーン様が赴かれますと、万が一崩れた際に救出が困難になるのです」
この世界の古着屋はね、サイズとか関係なく全部の服が一緒に摘み上げてあるそうなんだよ。
だからその中から自分に合う服を探してるうちに、その服が崩れて大変な事になっちゃう事があるんだって。
そんなとこに僕が行って、もし崩れた服の下敷きになっちゃったら大変でしょ?
だから僕が一緒に行くのはダメなんだってさ。
「そっか。じゃあ僕はいかない方がいいね」
「はい。それにルディーン様が仰られた通り、服や靴を買う以上この子たちもじっくりと時間をかけて選びたいと思いますもの。いらっしゃらない方がゆっくりと選べると思いますわ。
ストールさんはそう言うと、ニコラさんたちにそうよねって言いながらにっこり笑ったんだ。
靴底が皮でできている靴ですが、アスファルトの上でも歩いているとすぐに穴が開いてしまうんですよね。
後で聞いたら、そういう靴って本当は絨毯の上を歩く専用らしいんですよ。
その事を知らなくて下の皮だけどころかコルクの所まで穴が開いて大変な事になった事があります。
歩いているときに気が付いたのもそうですが、その靴、結構いいものだったから靴底を治すだけで結構なお金がかかっちゃったんですよね。
あれ以来、エナメルの靴底に買ったらすぐゴムを張るようになりました。
適材適所、どんなものも用途によって使い分けた方がいいというお話でした。